物質が移動する背景について。

夫がイギリスに単身赴任していた時のこと。お気に入りのカシミヤのストールをカフェに置き忘れ、無くしてしまったということをFacebookで知りました。大切にしていたのを見ていたので、悲しみの深さが伝わってきました。

使い続けているものには、思いがこもります。
使い手の胸に、数々の思い出、無二のストーリーが積み重なるから。

しかしこのストールの一件は、物質の移動、そしてそれをどう解釈するかという点から見ると、非常に面白いのです。
次男(当時小5)が近くにいたので、呼び掛けてみました。

私「次男、お父さんが使ってた、深緑のストールわかる?」
次男「うん、わかるよ」
私「お父さん、ヨーク(イギリスの一都市)で、あのストール無くしちゃったんだって」
次男「ありゃ。悲しいだろうね」
私「うん。モノとはいつかはお別れしないといけないけど、ツラいよね。ところで、あのストールはどういうものだったかというと」
次男「うん?」
私「私はお父さんと結婚する前に、最後の家族旅行として、鹿児島のおじいちゃんおばあちゃんと一緒にネパールを旅行したんだ」
次男「へえ!そうなんだ。ネパール」
私「うん、そう。ネパール素晴らしかったよ!でね、鹿児島のおばあちゃんが、お父さんへのプレゼントに、あのストールを選んだの」
次男「そうだったんだ!」
私「お父さんは、とても大事に使ってくれてね、もう結婚して17年になるけど、必ず冬になると巻いてくれてたんだよね」
次男「ボクたちより長い付き合い!(笑)」
私「そう。で、だよ」
次男「なあに?」
私「考古学では、モノの移動から背景を明らかにすることに挑むわけだ」
次男「うん」
私「では、ネパール産のストールがイギリスのヨークで発見された場合、次男はどんなストーリーを想像する?」
次男「ええ~っ?うーん、ネパールの商人がイギリスに売りに行ったとか」
私「うん。ありえるね。ほかには?」
次男「イギリス人がネパールに買いに来て、国に持って帰った」
私「うんうん」
次男「イギリスのお母さんに、ネパールを旅してる息子が送った」
私「郵便みたいなので?」
次男「う~ん、人に頼んで、の方が面白い」
私「というと?」
次男「旅する人が、リレーしていってイギリスに到着」
私「あぁ!面白いね」
次男「全然お父さん登場しない(笑)」
私「お父さんは、17年ほぼ日本でしか使っていなかったにも関わらず、この非常に短期の稀な期間にイギリスで落としたんだわ」
次男「誰が想像できるのw」
私「しかも、お父さんが直接ネパールで買った訳でもない」
次男「ムリムリムリムリwww」
私「じゃあ逆に、この件でもしストールの持ち主が日本人であると突き止めるには、どういう手掛かりが必要だろうか?」
次男「う~ん」
私「髪の毛が付着していたら調べられるかな」
次男「漢字で名前が書いてあればいいんじゃない?!」
私「それ、いいねえ!!」
この後も二人で手掛かりになる条件について話し込みました。

夫が無くしたストールは、私と次男に視野の拡大をもたらしました。

一生忘れません。もう手元には戻らないけれど、本当にありがとう。

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金田あおい

金田あおい

代表・デザイナー時代意匠考案 藍寧舎
大学・大学院で考古学を学んだのち、考古学や歴史学が持つ肯定的な側面に焦点を当てたデザインをしたいと専門学校へ。現在は、デザイン製作・ワークショップ・トークイベントなどをおこなう、時代意匠考案 藍寧舎(らんねいしゃ)として活動しています。

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