私の大好きな博物館のひとつが、仙台市にあります。仙台駅から地下鉄で6駅め、長町南駅より徒歩5分の「地底の森ミュージアム」です。

2万年前の人々の営みが活き活きと感じられる博物館
博物館は、富沢遺跡という遺跡をそのまま保存展示した施設になっています。まず、1982年から行われた発掘調査により、弥生から明治にかけての水田跡が何層にも重なった大規模な水田遺跡であることがわかりました。その後の調査でその下に縄文時代の層が見つかり、さらに1987年に小学校を建設するために行った事前調査で地下5メートルのところから、2万年前の旧石器時代の森林と湿地帯、そこに生きたシカの糞、またそのシカを追いかけて狩りにやってきた人のたき火や石器を作ったあとが見つかりました。

こうして旧石器時代の環境がわかる森と、動植物や人の痕跡がセットで見つかるのはとても珍しく、遺跡をそのまま保存展示することになったのです。小学校建設という限られた敷地の中に、よくこんな貴重な痕跡が見つかったものです。奇跡としか言いようがありません。

地下の展示室は50m×16mのスケートリンクのような楕円の保存施設で、地下水の浸入を防ぐために厚さ80センチの外壁を地下20メートルまで埋め込んであります。低地の遺跡で水が多い場所だからこそ、古代の木などがパックされて残ったというわけです。

出土した遺物にはポリシロキサンという薬品をしみ込ませて、劣化しないようにしています。地を這うようにうねった木の根とたおれた幹が出土した様子がよくわかります。シカの糞もコロコロとしていて、奈良公園で見るものと違いません。旧石器時代の遺跡をこういう形で展示しているのは世界でもここだけということですから、いかに貴重かがわかりますよね。

アウトドアが流行りの昨今では、
最先端のライフスタイルにも思える旧石器時代
展示室は20分間隔で照明が落とされ、氷河期のある1日の様子が、映像で流されます。3人の男が鹿を求めて狩りにやってきて、ここで一晩夜営をします。火をおこし、干し肉を食べ、石器の手入れをして過ごす様子が描かれています。
そのこなれた雰囲気も含めてなんともリアルで、遠い昔の旧石器人たちがどんな風に暮らしていたのか、すごく身近に感じることができるのです。

この映像、何度見ても飽きないんですよねー。今まで十数回は見ていると思いますが(笑)、いつもドキドキワクワクしてしまいます。頭の中で旧石器時代ってこんな感じかなぁと描いていたイメージに、色がついて動き出したとでもいいましょうか。初めて見たときは感動しました。旧石器人が私の中で、一気に身近な存在になりました。

ちょっとドキドキしちゃったりします。
旧石器時代当時は氷河期で、仙台は今の北海道北部ぐらいの気候だったと考えられています。このあたり一帯は、針葉樹の湿地帯でした。出土した木はトミザワトウヒという絶滅種の針葉樹がほとんどで、それにわずかな広葉樹が混ざっていたといいます。博物館の外庭にはこの氷河期の森が復原されていて、トミザワトウヒによく似たアカエゾマツやグイマツなどの木々が移植されています。ちょっと寂しげな雰囲気なのですが、それがまた旧石器時代っぽくてタイムトラベラー気分が味わえます。

「考古学が明らかにできること」をわかりやすく解説
発見されたたき火の跡からは、たき火を囲んで作った石器の破片の散らばりから、人々の座った位置やその日の風向きなどを推察することができます。2万年前のその日、その時、その場所に座った旧石器人の動作までわかるなんて、考古学ってすごいと思いませんか! 私は初めて知った時たまげましたよ。
植物や昆虫の化石も発見されており、その種類からも、この土地が今よりずっと寒冷な気候だったことがわかりました。こうした出土遺物や研究成果は、1階の展示室に紹介されています。


遺跡が出土したそのままの姿で展示され、旧石器時代を目の当たりにできる地底の森ミュージアム。考古学がどのように過去の人々の暮らしを明らかにしていくかを、わかりやすく学ぶことができるオススメの博物館です。
「地底の森ミュージアム」
http://www.sendai-c.ed.jp/~bunkazai/~chiteinomori/
旧石器から縄文へのハシゴで古代満喫な1日に
「地底の森ミュージアム」を訪ねた後は、もう一つオススメの場所があります。仙台駅からバスで30分ほどのところにある「縄文の森広場」です。旧石器を満喫したら、一歩進んで縄文時代へ、というアケスケ的に理想的なコースです。

ここは山田上ノ台遺跡という、旧石器・縄文・平安・江戸時代の複合遺跡が発見された場所で、なかでも縄文時代中期後葉の竪穴住居跡38軒、土坑が380個以上、ゴミ捨て場が3ケ所以上見つかったことから、遺跡を保存活用することとなりました。

見どころは、豊富な縄文体験と、当時のムラを復元した広場です。
体験は少人数なら予約不要で、色々なメニューに挑戦することができます。アクセサリー作り、編布作り、土製品作り、石器作り、火起こしといったラインナップで、中にはシカの角の釣針作りや土器作りなど、3時間ほどかけてじっくりと取り組めるものもあります。大人も本気でできる体験メニューがあるのは、嬉しいですよね。

ことに今回気づき、改めてオシャレだなと感心しました
私が訪れたのは雨模様の日でしたが、縄文時代の集落と環境を復元した広場は、縄文人が出てきそうな風情です。
クリ材で組んだ屋根に土を乗せた、土屋根タイプの復元住居は全部で3軒あり、周りには貯蔵穴や落とし穴などが表現されています。周辺にはクリやコナラなどの落葉広葉樹を植栽し、当時の植生を表現しています。

草本ではササ、チガヤ、キキョウなどが植えてあります。

旧石器から縄文へと1日で巡れる立地環境の良さも魅力的な仙台。さらに足を伸ばして、東北歴史博物館や多賀城跡、さとはま縄文の里史跡公園と組み合わせるのもオススメです。
「縄文の森広場」
http://www.sendai-c.ed.jp/~bunkazai/~jyoumon/
アケスケ的旅情報
仙台といえば大都会。古代満喫の1日のあとのお楽しみもいっぱいです。牛タンやカキ、笹かまぼこ、ずんだ餅などの食べておきたい美味はもちろん、秋保温泉や作並温泉、松島などのサブスポットへも近くて、週末旅行にぴったりです。
しかも、ニッカウヰスキーの蒸留所やキリンビールの工場もあり、飲兵衛への吸引力も大(笑)。
工芸品などに興味のある方なら、秋保温泉にある「秋保工芸の里」もオススメです。近くには1日5,000個も売れるというおはぎの名店「スーパーさいち」もありますよ!
(多田の過去記事を加筆修正して掲載)


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