考古学研究のアプローチ〜百万塔陀羅尼を一例として〜(後編)

前編では、百万等陀羅尼の概説、歴史についてお話しさせていただきました。

後編では、百万塔陀羅尼がどのような方向から研究されているかの例を見ていきます。

百万塔陀羅尼は、陀羅尼経と、小塔の部分に分けられますので、まず陀羅尼経についてお話しします。

陀羅尼経に対する考古学的な研究は、例えば版・墨・紙・書かれた内容などからのアプローチがあります。
版であれば、素材は何だったのか(残っているのはお経の方で、版は見つかっていません)、版面はどのようだったのか、刷り方はどんな方式だったのか、インクはどのようにつけたのか……などについて、実験を繰り返しながら当時の方法を探っています。

墨は、原料について研究が進んでいます。

紙は、本紙・表紙・包紙から成るのですが、それぞれについて原料・漉き方・染め方・表面加工の方法・本紙と表紙の接着剤について調べられています。

陀羅尼経の内容については、なぜ従来のお経を書くという行為ではなく刷るということを選択したのか、なぜ『無垢浄光大陀羅尼経』のうちから4種だけが選ばれたのか、その中でも六度陀羅尼経だけが極端に少ないのはなぜかということについてそれぞれ研究されています。

小塔については、また別のアプローチで研究されています。

気になるのはまず素材ですよね。上下同じ素材かと思いきや、塔身と相輪では素材が異なることがわかってきています。また、白土で彩色されていたことも明らかにされました。

製作技術については、轆轤挽きであることは間違いないのですが、その轆轤器の構造、工具について研究が勧められています。
平城宮跡では、用途のわからない遺物が出土していたのですが、もしかするとそれは相輪を削り出した時に出るものの一部ではないかということが指摘されています。

製作環境についても、発掘調査によって出土したエリアを元に、調べが進んでいます(というと刑事物か何かのようですが……)。

また、小塔への底部墨書が何を表しているかというのも研究テーマの一つです。

その時代の思想・信仰的な背景は、研究の重要な基盤になります。どのような価値観で生きていたのか、その時代の人の思いを知る資料はとても大切です。

このように、様々な方向からの研究を、関係する分野の成果と連携しながら進め、いにしえから現代へ至る遺物が一体どのようなものであったのかということを復元していくのが考古学です。

今回は、一例として百万塔陀羅尼についてお伝えしました。
いかがでしたでしょうか?一つの遺物についても、それはそれは様々な側面からアプローチされているのです。

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【参考文献】
中根勝 編著・日本印刷学会西部支部百万塔陀羅尼研究班 編 1987 『百万塔陀羅尼の研究』刊行委員会 八木書店
湯浅吉美 2009「百万塔の思想的背景ー南都仏教史における位置付けを考えるー」『埼玉学園大学紀要(人間学部編)』第5号
増田晴美 編 『百万塔陀羅尼の研究ー静嘉堂文庫所蔵本を中心にー』便利堂

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金田あおい

金田あおい

代表・デザイナー時代意匠考案 藍寧舎
大学・大学院で考古学を学んだのち、考古学や歴史学が持つ肯定的な側面に焦点を当てたデザインをしたいと専門学校へ。現在は、デザイン製作・ワークショップ・トークイベントなどをおこなう、時代意匠考案 藍寧舎(らんねいしゃ)として活動しています。

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