遺跡に行って考古学Vol.18 大森貝塚

歴史の画期となる大発見には偶然がつきもの。
1877(明治10)年6月19日、ある男が汽車の車窓から貝殻が堆積した地層を発見しなかったら…。

約140年前の偶然が、日本考古学の出発点に

今日ご紹介するのは、縄文人の集落と貝殻の捨て場跡が見つかった大森貝塚です。発見したのはアメリカ人動物学者のエドワード・モース博士。腕足類という貝の研究のために横浜に来日し、新橋までの汽車の車窓からたまたま偶然に、線路側の斜面に露出した貝塚を発見したのです。もし、モース博士が汽車の反対側の席に座っていたら、窓の外を眺めていなかったら、この歴史的発見はなかったことでしょう。

モース博士は貝の研究者であり、また貝塚の発掘調査の経験もあったことから、すぐに貝塚だと気が付き、3か月後には本格的な発掘調査を行いました。この調査では土器214点、骨角器23点、石器9点など全261点が出土し、そのうち165点が後に重要文化財に指定されました。これが日本で最初の科学的な発掘調査であり、発掘調査報告書もまとめられたことから「日本考古学発祥の地」として大森貝塚が歴史に名を刻むことになったのです。

横浜—新橋間に鉄道が開通したのは1872(明治5)年のこと。その工事でこのあたりの地層が削られ、貝塚の断面が露出したのでしょうが、モース博士が発見するまでの5年の間、誰も気がつかずにいたことを考えると、歴史の偶然とは本当におもしろいなぁと思います。

ところで、その発掘場所が、どこだかわからなくなっていた時期がありました。現在でも記念碑が二箇所に建っており、その混乱ぶりが伺えます。一つは1929(昭和4)年に作られた「大森貝塚」碑で品川区大森貝塚遺跡庭園内に、もう一つは1930(昭和5)年に建てられた「大森貝墟」碑で大田区のNTTデータ大森山王ビル敷地内にあります。
実はモース博士の論文には発掘場所の詳細が書かれておらず、また遺跡整備もされなかったため、発掘から50年経つと地元の人や発掘に関わった人もどこだったかわからなくなっていたのだそう。
発掘場所を巡る長い間の論争に決着がついたのは1977(昭和52)年、発掘場所の地主に東京府が発掘賠償金を支払った際の文書が発見され、現在の品川区大井6丁目であることが判明。さらに1984(昭和59)年の再発掘でも品川区側には貝の層が見つかったものの、大田区側では見つからず、モース博士が発掘したのは、品川区の大森貝塚遺跡庭園と結論が出されました。

モース博士の功績を称えつつ、縄文時代に親しめる庭園

大森貝塚遺跡庭園を訪ねると、縄文時代の解説パネルや貝層の剥離標本があり、看板やトイレ、休憩所には地層や縄文がモチーフに使われていて、とても熱意を感じる作り。これは大森貝塚詣でには外せないスポットです。

しっかりと学びたい人には物足りないかもしれませんが、
一般の方が考古学や縄文時代に親しむには最適な施設だと思います
土器を手にしたモース博士の胸像がお出迎え。食いつきそうな近さでカメラを向ける私。
興奮のあまり変なスイッチが入っていたようです(モース博士、ごめんなさい)
貝塚の剥離標本もあり、どんな風に出土するのかがわかります。
小さな子供が興味深げに貝に触れていました
記念碑は線路のすぐそばにありました。背後は斜面になっていて、
発見当時の雰囲気を感じることができます
当時の斜面の復元展示もあり、こんな様子が車窓から見えたのかなと想像することができます

一方の大田区の記念碑は、NTTデータのビル敷地内にありますが、案内板があり見学可能です。線路ギリギリの場所に堂々たる姿で立ち、まるで車窓から貝塚を見出してくれたモース博士に、幾年月を超えて敬礼をしているような風情でした。

力強い筆致でカッコ良かったです(笑)。
せっかくの大森貝塚詣でなら、どちらの記念碑も必見です

大森貝塚をもう少し詳しく知りたい!という方は、大森貝塚遺跡庭園から大井町駅方向に5分ほど歩いたところにある、品川区立品川歴史館もぜひ訪ねてみてください。古代から宿場町としての品川のことまで、品川区の通史が学べる博物館です。
2階が大森貝塚の展示となっていて、モース博士の来歴や功績が紹介されています。出土遺物の多くは東京大学総合研究博物館の所蔵となっていますが、複製品や品川区教育委員会所蔵品が展示されています。

交通の便の良い都心にあるので、学会や会議の折にも訪ねやすい大森貝塚。日本考古学の出発点を一度尋ねてみてはいかがでしょうか。

おまけ:アケスケ的旅情報

大森の隣はグルメ天国の蒲田。餃子、とんかつ、ラーメン…等々、遺跡同様に堪能したい名店がいっぱいです。餃子好きの私は結局いつも餃子一択(笑)になってしまうので、ぜひ皆さんのお気に入りのお店も教えていただきたいです。

私のお気に入りは歓迎(ホアンヨン)さん。
「私、遺跡と餃子とビールさえあれば生きていける」
いつもそう思わせてくれます。餃子屋さんのハシゴも良いですが、歓迎さんは餃子以外も美味しいので、毎度腰を落ち着かせてしまいます。

大森貝塚遺跡庭園
住 所  東京都品川区大井6丁目21
公開時間 見学自由

大森貝塚(墟)(NTTデータ大森山王ビル内)
住 所  東京都大田区山王1丁目3
公開時間 9:00〜17:00

品川区立品川歴史館
http://www.city.shinagawa.tokyo.jp/jigyo/06/historyhp/hsindex.html
住 所  東京都品川区大井6-11-1
電 話  03-3777-4060
開館時間 9:00〜17:00(入館は16:30まで) 
入館料  大人100円
休館日  月曜日・祝日(月曜日が祝日の場合、その翌日も休館)、年末年始

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多田みのり
旅と歴史のライター、奈良市観光大使 大学・大学院で考古学、歴史地理学を学び、一般企業に就職。その後、一般の方にわかりやすく考古学の成果を紹介することで、自由に歴史を語り、想像する人が増えてほしいとの思いから、歴史ライターに転職。雑誌やウェブでの取材、執筆、編集のほか、小中学校でのワークショップや講演などを行なう。

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